第3編-1 運航
第1章 操縦
1-1 小型船舶 操舵の仕組み
①船外機船
ハンドルを回すと、エンジン本体の向きを変えることにより、プロペラの向きを変える。(左に舵を切るとプロペラは左を向き水を左に押し出す、すると船尾は右に押し出され、船首は左に曲がっていく。)
②船内外機船
ハンドルを回すとプロペラを回すドライブユニットの向きがかわり、プロペラの向きが変わる。エンジンは船内に固定されていて方向を変えない。
③船内機船
ハンドルを回すとプロペラの後ろにある舵板の向きが変わる。(舵板でプロペラで後ろに押し出された水流の向きを変える)
④ウォータージェット船
ハンドルを回すとウォータージェットの噴射口の向きが変わる。
1-2 操縦特性
(1)舵効き
- 船の形や推進方式に関わらず、高速航走時は舵の効きがよく、速力が遅くなるほど舵効きは悪くなります。
- 潮流などの流れに向かって航行する時や、向かい波の時は舵の効きは良く、逆に後ろから流れを受けてる時や追い波の時は舵効きが悪くなります。
旋回時の傾斜
1 排水型のボートは旋回時に外側に傾斜します。
2 滑走型のボートは旋回時に外側に横滑りしながら内側に傾斜します。
(3)キック
航走中に舵を切ると船尾が元の針路の外側に押し出されます。(右に舵を切ると船尾は左に)この現象をキックと言います。
キックを意図的に利用すれば、船からの落水者(右舷側に落水した場合は、直ちにニュートラルにするとともに右にいっぱい舵を取ります。)や水面の浮遊物をプロペラに巻き込まないよう船尾を振って避けることができます。
(4)プロペラの作用
プロペラが回転するとき、水圧の深いプロペラの下部と上部では水圧が異なるために抵抗も変わってくるので、その差によって船尾を横に動かす力が発生します。
一軸右回り船では、前進時は船尾を右に、後進時には船尾を左に動かす力が発生します。
1-3 船体の安定・バランス
(1)トップヘビーとボットムヘビー
①トップヘビー(重心が高く、復元力が小さい)
荷物などを高い位置に積んだ状態をトップヘビーといいます。
風や波を受けたときや旋回時の船体の傾きが大きくなるので転覆の危険があります。
船体の横揺れの周期は長くなります。
②ボトムヘビー(重心が低く、復元力が大きい)
重量物が低い場所に積まれた重心が低くなった状態をボットムヘビーといいます。
復元力が大きくなるので安定性が増します。船体の横揺れの周期は短くなって早くなります。
(2)トリム
船首と船尾の喫水の差をトリムといいます。
①船首トリム
船首側が船尾側より沈んでいる状態。船首が波に突っ込みやすくなります。
②イーブンキール
船首喫水と船尾喫水が等しい。
③船尾トリム
船尾側が船首側より沈んでいる状態。
適度な船尾トリムは、プロペラの効率が良く、舵効きも良い。
船尾トリムが大きすぎると、船体の抵抗が大きく、速力が出ない。
荒天時などは船首が左右に振れて針路を保ちにくい。
1-4 出入港 錨泊
(1)出入港時の注意点
出入港は、原則として夜間を避け、昼間できれば風潮流の影響の少ないときを選んで行います。
港やマリーナ、およびその出入り口では微速航行(徐行)が原則です。
(2)離岸
離岸には前進離岸と後進離岸の二つの方法があります。
どちらの方法でも舵の向きを変える際に船が振れ動き、前進離岸の場合は船尾が、後進離岸の場合は船首が桟橋に寄って行くので、係留ロープを解いたら船を十分に桟橋から話して発進するようにします。
(3)着岸
着岸する前に係留ロープ、フェンダー、ボートフックなどを事前に用意しておきます。
着岸の際は、スピードと舵の調整が重要です。必要に応じて前進、中立、後進を使い分けてスピードコントロールをします。基本的には桟橋に向かって30°ぐらいの角度で接近します。風や流れの影響で船が振られることもあるので、舵を適宜使って方向を修正し最後に桟橋と平行になるように舵をとり、止めます。
(4)係留
船を桟橋などに係留するときは、風上側(流れがあるときは上流側)の係留ロープを先に結びます。解くときは逆。
(5)錨泊 (錨地と水深、走錨)
アンカリングする際は、水深と底質のチェックが大切です。底質が泥や砂の場合は柔らかいのでアンカーがよく効きます。石や岩、サンゴなどは効きが良くありません。
アンカーは横に引っ張ると良く海底に食い込みます。上向きでは効きません。従ってロープは長い方がよく効きます。
アンカーロープの長さは、水深の3倍くらい出すので、自船のアンカーロープの長さを考慮し、あまり深いところは避けましょう。アンカーとロープの間にチエーンを入れるとチエーンが沈むためアンカーが良く効くようになります。
アンカーロープは深さの3倍以上出す
2 走錨
アンカーを打っている底質が悪かったり、風波が強くなると走錨することがあります。
走錨していると分かったときは、泥や砂などの底質の良いところにアンカーを打ちなおし(転錨)ます。
走錨の判断
- 他船との位置関係が投錨時と大きく変わっている。
- 風を受ける舷がいつまでたっても同じ。
- アンカーロープがピンと張ったままになっている。
- 錨を中心に振れ回っているときはアンカーが効いていて走錨していない。
振回り
1-5 河川や狭い水道の航行
(1)河川は流れと水深に注意
河川は大雨のあとは、川の流量が増し、流速が速くなり、浮遊物が多くなります。
河口付近は潮汐の影響によって水深が変化します。
川の湾曲部は内側が浅くなっています。
川幅が急に広がっているところでは、中央部が浅くなっています。
湾曲部の内側は浅い
川幅が急に広くなっているところは中央部が浅い
(2)河口付近は、巻き波や三角波といった危険な波が立ちやすく転覆などの事故が多くなっています。
(3)狭い水道
流れと同じ方向へ進む場合は、舵効きが悪くなるので、順調(つれ潮)の強い時は通行を避けるべきです。潮流が反転する前の流れが止まる憩流時あるいは弱い逆潮の最も操縦しやすい時期に水道を通過するようにしましょう。流れが速い時は通航を避けましょう。
(4)狭視界時の航行
①見張り員を増員するなど見張りを厳重にする。
②窓を開いて他船の霧中信号の音を聞き漏らさないようにする。
③視界の半分で停止できる速力に落とす
④昼間でも航海灯を付けて目立つようにする。
⑤自船の存在を知らせるために、霧中信号を行う(ホーンを鳴らす。なければ笛)
⑥航海計器などで常に自船の位置を把握する。
岸からどの位離れているか水深はどの位か。
船位が分からなくなった時はやみくも走らず、エンジンを中立にして停留し、視界の回復を待つ。エンジンは止めない。
1-6 曳航時の注意点
(1)曳航
①ロープの取り方。
丈夫なロープを使う。
ロープの長さは、引く船と引かれる船の長さの和の3倍程度とします。
ロープの取り方は、引く船の中心に荷重がかかるように後部両側のクリートにÝ字型にロープを取り、引かれる船は前のクリートに結ぶなど、ロープが両船の船首尾線上を通るように結ぶ。緊急時にはすぐ解き放せるように結ぶ。
②曳航時の操船
引かれる船はできるだけ軽くする。人や荷物は、できるだけ引く方の船に移す。
重心を船尾よりにし、前を軽くする。
引き始めは微速でゆっくりと進み、曳航ロープが張ったら徐々に増速します。が曵航中は常に低速で行います。
③波浪が高いときは曳航ロープを長くします。
狭視界時や狭い水道を通過する場合、交通量が多いところは曳航ロープを短くし速度を落とします。
(2)水上スキー等を引く場合
①引く船にプレーヤーの状況を監視する見張り役を立てる。
②見張り役とプレーヤーの間のジェスター(サイン)を決めておく。
③操縦者は、プレーヤーのことが気にかかるが安全運転に徹する。
④トーイング中は自船の操縦性能が制限される。
⑤旋回時のスピードが速く、旋回半径が小さいほど、プレーヤーは外側への降られ方が大きくなる。
⑥プレーヤーを船に引き上げたり、ロープを回収するときは、プロペラへの巻き込みに気を付け、エンジンは止める。
第2章 航海の基礎
2-1 海図
海図や水路書誌を水路図誌と言います。
(1)海図
海図は、航海に用いる海の地図で、海岸線や灯台、航路標識、水深、障害物など船の航行に欠かせない様々な情報が書かれています。
海図は、最新のものを用います。
プレジャーボート用には、海図とは別に作成された、ヨットモーターボート用参考図があります。
(2)高さと深さの基準
海面は、潮汐によって上下していますが、海図で用いられている高さや深さは、下記の水面を基準にした数字です。
①最高水面 最大満潮時の水面 (橋の高さ 海岸線)
②最低水面 最大干潮時の水面 (水深 干出の高さ)
③平均水面 潮汐がないと仮定した時の水面で、永年の観測値から求めたもの。(山の高さ 島の高さ)
海図記号など
(1) 5mの等深線 (2) 暗岩のマーク (3) R→ロック・岩 (4) 大島の高さ8m
(1) 87→水深8.7m (2) S→サンド・砂 (3)暗岩のマーク (4)新島の下の数字は新島の高さ12m
海図には一定の記号、略号、図式が用いら
れています。
水深、高さの基準面
干出岩:最低水面で水面上に露出する岩。高さは最低水面からの高さ。
洗岩:最低水面になると水面とほとんど同じ高さになる。
暗岩:最低水面になっても水面上に露出しない岩。
2-2 航海計器 磁気コンパス
(1)磁気コンパス
北を0度として右回りに一周を360°とします。
北 N 000°
北東 NE 045°
東 E 090°
南東 SE 135°
南 S 180°
南西 SW 225°
西 W 270°
北西 NW 315°
(2)偏差
磁気コンパスが指す北は、磁北といって真北と一致しない。
真北からのずれを偏差という。
地球の磁気が移動するため、偏差は地球上の場所及び年によって変化します。
磁北が真北よりも東側(右)に偏っている場合は偏東偏差といい、
磁北が真北よりも西側(左)に偏っている場合は偏西偏差という。
日本近海は5~8度の西偏差がある。
磁針方位に偏差を加減すると真方位が得られます。
(3)自差
磁気コンパスは、船内にある磁気を帯びている鉄器類や電気機器などの影響を受けると磁北をささないで東か西に偏るこの偏りを自差と言います。
自差は、磁気コンパスの設置場所が変わったときや鉄器類を近づけたとき、船首方位が変わったときなどに変化する。
(4)簡便な方角の測定
北半球では、アナログの腕時計を水平に保ち、短針を太陽に向けるとその時計の12時と短針の中間がほぼ南にあたります。
(5)GPS
GPSは グローバル・ポジショニング・システム の略で人工衛星を利用した精度の高い測位システムです。地球上のどこでも、24時間いつでも、どのような天候でも、ほぼ正確に現在地を知ることができます。
2-3 沿岸における航法
(1)緯度、経度を求める
海図上で緯度、経度を求めるには、両サイドの緯度メモリで緯度を、上下の経度メモリで経度を測ります。
(2)距離は緯度メモリで求めます。
海図上で、測定したい2地点間にデバイダーの両脚を当て、その地点の真横の緯度尺に合わせて目盛りを読みます。
(3)距離・速力
緯度1分は1海里で、1海里は1852mです。
1ノットは、1時間に1海里進むスピードです。10ノットは時速18.52km。
(4)対地速力と対水速力
対地速力は、不動の大地に対してどれだけの速力で進んでいるかを示すものです。
対水速力は、船が浮かんでいる水に対してどれだけの速力で進んでいるかを示すものです。潮流などの流れがある場合、対地速力と対水速力は一致しません。水の流れの分だけ差が生じます。
(5)速力の計算
速力=距離÷所要時間
(6)針路(方位)を求める
海図上の方位を測定したい2地点に三角定規を当て、コンパス図上に平行移動して求めます。
船は、風、海流、潮流の影響を受けて流されます。
例えば、5°南に流されるのであれば、5°北に針路をとる必要があります。
(7)船位の求め方
①方位線
物標の方位をコンパスで測定し、この方位を海図上のコンパス図の方位目盛りに三角定規を当て、これを物標のところまで平行移動して方位線を引けば舟はその線上にあります。
2つ以上の物標の方位を測れば、それぞれの方位線は1点で交差します。船はその交点にいます。この交点を緯度尺と経度尺で読み船位を求めます。
②トランシット
2つの物標が一直線上に重なって見えるとき船の位置はこの一直線上にあります。
トランシットは、船首目標として利用したり、変針目標として利用したりします。
2-4 航路標識
光、形、色、音、電波などによって船の航行を援助する施設を航路標識といいます。
(1)灯標・立標
障害物の存在を示すための構造物で灯火を発するものを灯標、灯火を発しないものを立標という。
(2)灯浮標・浮標
険礁や航路などを示すために、本体を海上に浮かべた構造物で、灯火を発するものを灯標、灯火を発しないものを浮標という。
(3)浮標式
標識は、種別毎に本体の塗色や灯光の色が決められていて、トップマークで識別できるようになっている。
(4)灯台灯の灯火、灯質
灯台や灯浮標など灯光を発する航路標識は、それぞれ固有の灯色や光り方が定められています。これを灯質といいます。
灯色にはには白(W)、赤(R)、緑(G)、黄(Y)の4種類があります。
光り方(灯光の種別や周期)には左に示すようなものがあります。
第3章 船体、設備、装備品
3-1 船体各部の名称
(1)船体の主な構造
1 ハル(船体)
船の外板がかたちつくる船体そのもの。
2 キール(竜骨)
船体の最下部を船首から船尾まで通っている主要材で、船体の縦強度を保つ。
3 フレーム(肋骨)
キールに取り付けられ、横の強度を保ち、外板を支える主要材。
4 ビーム(梁)
フレームの上端を連結する構造材で、横の強度を保ちます。この上にデッキが張られます。
5 デッキ(甲板)
ハルの上部を蓋のように覆うかたちで張られています。
6 トランサム(船尾材)
船体最後部を構成する板で、船外機や船内外機のドライブユニットがここに取り付けられます。
7 ガンネル
ハルとデッキの結合部、または舷側の最上部で、桟橋などへ接岸時に船体の損傷を少なくするためにゴムや樹脂などを張り巡らしている。
・フェンダー
船体の外舷を保護する
・フェアリーダー
係留ロープを船内に導き、係留ロープの損傷を防ぐ。
船内外機船 各部の名称
スカッパーは排水口、出航する際には開けておく。ボットムプラグは船底栓、水面に下ろす前には必ず閉める。ガンネルはハルとデッキの接合部。フェンダーは船体の外舷をを保護する、古タイヤなどを使っている場合もある。後ろのクリートは他船を曳航するときにロープをY字にとる。前のクリートは曳航してもらうときにロープをかける。バウアイはトレーラーに積み込む際にロープを掛ける。
3-2 設備、装備品、法廷備品
①操舵装置
船の針路を変えたり保持したりします。
②アンカーおよび揚錨設備
アンカー(錨)は、船上から投入して海底に食い込ませ船を止めます。
揚錨機(ウインドラス)やウインチでアンカーを巻き上げます。
③係船設備
船を桟橋や岸壁に係留する時に使用するのが係船設備です。
係留ロープ、クリート、フェアリーダー、ビット、フェンダー、ボートフックなどがあります。
④排水設備
船内にたまった水を排出するための設備で、ビルジポンプ、スカッパー、バケツなどがあります。
⑤消防設備
消火器や赤バケツなどがあります。
⑥救命設備
救命胴衣、救命浮環、信号紅炎などがあります。
これらはいざという時にすぐに使う必要があるので船倉などにしまっておいてはだめです。
⑦通信設備
無線電話や携帯電話
3-3 発航前の点検
(1)船体外部の点検
①係留の状態
係留ロープやフェンダーに異常がないかどうか点検します。
②船体の状況
バウ、デッキ、舷側、スターン、推進機などに異常がないかどうかを点検します。
③船体の安定
傾き(ヒール)、トリム(船首と船尾の喫水の差)、揺れ具合などを見て船体の安定性を点検します。
(2)設備、装備品、法定備品の点検
操縦装置(ハンドル、リモコンレバーなど)、アンカー及び揚苗設備、係船設備(クリート、ビット、ロープなど)、排水設備(ビルジポンプ、スカッパー)、各種計器、船灯、開口部(ドア、ハッチ)、ハンドレール、救命設備(救命胴衣、救命浮環)、消防設備(消火器、赤バケツ)、通信設備(無線機、携帯電話)、法定備品の航海用具に不備や異常がないか信号紅炎など有効期限のあるものについてはその期日を点検します。
3-4 船体の保存や手入れ
(1)海上係留している場合
- 船底に付着する海藻や貝類(フジツボ)などに注意し、定期的に上架して手入れをします。フジツボなどを鉄のへらなどで取り除き、フジツボ等が付かないよう船底塗料を塗ります。
- プロペラシャフトやドライブなどに取り付けてある防食亜鉛の点検・交換を行います。亜鉛の大きさが半分ぐらいに減ったら新品と交換します。防食亜鉛の働きを妨げるので塗装してはいけません。(ドライブ等が水中で水と摩擦すると静電気がたまります。たまった電気がドライブから海水中に放電するとドライブの金属が溶けます。ドライブ等に防食亜鉛を取り付けておくと、イオン化の強い亜鉛が先に海水中に放電し、亜鉛が溶けることによって周りの金属を守ることが出来ます。)
- ときどきハッチ等を解放し船内を乾燥させます。
- 上架したら船底栓(ボットムプラグ)を抜きビルジを排出します。タンクの内部を点検しておきます。
3-5 ロープワーク
ロープを結んだり、つないだりする作業を結索(ロープワーク)といいます。
- もやい結び →係留ロープを桟橋の鉄のリングなどに結びます。
- 巻き結び →係留ロープを桟橋上のビットに結びつけます。
- 本結び →同じ太さを同じ太さのロープを繋ぐのに用います。
- ひとえつなぎ ふたえつなぎ →太さの異なる2種類のロープを繋ぐ時に有効です。
- クリー止め →クリートにロープを止める結び方です。
- いかり結び →錨にロープを取り付けるなどに使用します。